深部体温は一日中同じではありません。1日の中でも就寝中の身体は、生命維持に必要なエネルギーしか使っていないため、深部体温はもっとも低くなります。そのため、就寝中に深部体温が下がり過ぎてしまうと、朝起きて動き出しても、臓器の活動や血のめぐりが滞っているためダルさを感じたりします。
たとえば夏の寝室のエアコン設定は26〜28℃とよく聞きますが、これは前編で紹介したように、深部体温の最低ラインである35℃よりも低い。そして寝苦しかったり寝相の悪さで身体に掛けているタオルケットをはいでしまう人は多いでしょう。すると身体は室温にさらされて冷えてしまい、深部体温も必要以上に下がるため寝起きに不調を感じるのです。
睡眠研究で著名な研究者の話では、夏の就寝時は室温を24℃に設定し、長袖のパジャマで布団は首までしっかり掛けて、“頭だけ冷えている状態”で眠るのが良いそうです。
就寝時においても深部体温は適正に維持すべきですが、逆に、頭蓋骨の中にある脳は冷やしたほうが良い睡眠がとれるというのです。記憶や学習を担う「海馬(かいば)」や内分泌や自律機能の調整を行う「視床下部」は脳の深部にあり、日中の活動で熱をもったこの部分を冷やすには、冷たい空気を呼吸で取り込むことが一番有効です。頭を冷やす氷枕やおでこに貼る冷却シートの冷気は脳の深部まで届かないため、空気(室温)を冷やしてそれを鼻から吸い込むというわけです。
世界的に見ても睡眠時間が短いことで知られる日本人は、寝る時間がもったいない、お風呂に入る時間がもったいないと睡眠負債を増やす一方です。とはいえ、すぐに睡眠時間を増やすことも難しい・・それならば、「睡眠の質を上げる努力」をしましょう。不調を感じて睡眠を改善したいと思うなら、就寝前に温浴で深部体温を上げる「良い睡眠をとるための準備」が必要なのです。
余談ですが、日本の寝室は、欧米に比べると簡素なインテリアが多いですよね。これは「寝る」という行為が、身体の健康を保つためにとても重要だということを、日本人が軽んじている現れではないかと感じるのです。深部体温を上げ、良い睡眠をとることは、身体の正常な機能と精神の健全性を保ちます。
自律神経の整えにも深部体温
良い睡眠をとるためには、就寝の2〜3時間前に入浴することが望ましいといわれています。これは、入浴後に深部体温が自然に下がっていくことで、自律神経がスムーズに作用するからです。
「自律神経」とは、身体の機能を制御する神経系の一部で、自分の意思に関係なく機能しています。自律神経は、身体の機能の活性を促す「交感神経」と、身体をリラックスした状態に促す「副交感神経」で構成されています。このふたつの切り替えが乱れると、身体や心の状態に支障が出ます。
温浴をして深部体温が上がると、交感神経が優位になり覚醒した状態になります。そして温浴のあと深部体温が下がるにつれ、覚醒も徐々におさまって副交感神経が優位になります。この過程に2〜3時間かかるため、就寝から逆算した時間に温浴をして、リラックスタイムと入眠のタイミングを合わせればスムーズに眠れますよ、というわけです。
サウナーの人たちは、サウナと水風呂を繰り返すことで、この交感神経と副交感神経の作用を体験しているといえます。これはいわば「自律神経訓練法」で、サウナーが言う「ととのう」とは、自律神経の機能が整ったことを指しているのではないでしょうか。
しかしサウナで厳しい熱波に耐えなくても、自律神経の機能を整えることは簡単にできます。たとえば私は、冬場にお湯と冷水の足湯を繰り返すことで自律神経を鍛えていますし、nifuの発酵温浴のコースは、おがくずの発酵熱で身体を芯から温めた後に、静かな休憩室でリラックスする時間を設けていますね。休憩室をスマホの持ち込みNGにして、デジタルデトックスを勧めていることも良いと思います。
これを食べるとお腹を壊すとか、性周期を問わず貧血気味だとか、私たちの身体の特性は、ある程度が遺伝子で決まっています。日本の寒い冬をTシャツで歩く外国人観光客が話題になったりもしますが、これは日本人の体温が特に低いのではなく、日本人は骨格的に、外国人よりも筋肉や脂肪が薄い人が多いからだと思います。
しかし深部体温を上げるということは、万人に共通して、全身の健康のために良いことです。もし毎日の温浴が難しいなら、深部体温を上げるという行為を、不調を感じた時のメンテナンスや、頑張った自分へのご褒美として、定期的に取り入れても良いでしょう。深部体温を上げることをライフワークに取り入れるのです。
深部体温は皮膚温のように簡単に測れるものではないので、「深部体温を上げている」という満足感を高める環境も大切かもしれません。
nifuの発酵温浴に使われているおがくずには、美肌効果のある乳酸菌が確認されているので、nifuの発酵温浴なら身体を芯から温めると同時にスキンケアをしているといえます。nifuのおがくずは、伐採から製材まで全て自社で管理しているヒノキ100%という安心感も、今の時代には欠かせないものです。