第四回

医学の進歩で注目の微生物に。
乳酸菌の働きと“正しく”摂るべき理由

前編:作用させるには正しい摂り方がある。乳酸菌のこと、どこまで知っていますか?

医学の進歩で注目の微生物に。 乳酸菌の働きと“正しく”摂るべき理由

ひと昔前の菌活ブーム以来、今も乳酸菌由来の食品やサプリメントは新商品が登場し続けています。納豆やヨーグルトなどを積極的に摂る食生活の人も多いでしょう。ところで、“乳酸菌は身体に良い” と知っていても、乳酸菌とは何であるか、身体でどんな働きをするかまで、理解されているでしょうか?

乳酸菌とは、糖を利用して乳酸を作り出す「微生物」の総称です。自然界のあらゆる場所に存在し、現在わかっているだけでも数千種あるといわれています。漬物やチーズなど、古くから世界各地で乳酸菌を利用した保存食が作られてきたように、私たちとって非常に身近な存在です。

私たちの身体には、約40種類の乳酸菌が住んでいるといわれています。たとえば、乳酸球菌は、主に小腸下部に住みついて乳酸を作り出します。乳酸菌と似た働きをするため乳酸菌に大別されるビフィズス菌は、大腸に多く住みついています。乳酸菌をはじめ、このように健康に役立つ働きをする細菌群は「善玉菌」と呼ばれています。

善玉菌と同様、その働きが身体に影響を及ぼす細菌群には、「日和見(ひよりみ)菌」「悪玉菌」もあります。日和見菌は、環境次第で有益にも有害にも働きます。悪玉菌は、文字通り身体に悪影響を及ぼす細菌群ですが、悪くてもゼロにはできない“存在悪”。この3つは、もともと身体に存在する「常在細菌」だからです。ですから、健康を保つには3つの細菌群のバランスが大切です。これを「フローラの適正化」といいます。

「フローラの適正化」に乳酸菌が作用する

「腸内フローラ」という言葉を聞いたことがありませんか? 私たちの身体には、この3つの細菌群が種類ごとに住みついているため、これを花畑(フローラ)に見立てています。このフローラは、腸内(消化器系)だけでなく、皮膚、口腔、鼻腔、上気道、泌尿器系にも存在します。個々人でフローラの環境は異なり、さらに一人の人間の身体でも、部位ごとのフローラに存在する細菌の内容は異なります。

食品やサプリなどで外から取り入れた乳酸菌は、主に腸内フローラのバランス調整に作用します。たとえば下痢症状の患者に医師がビフィズス菌を処方するのは、悪玉菌優位でバランスを崩した腸内フローラを、善玉菌優位のバランスに戻すためです。最近は、個人の唾液や便を研究機関に送ると、「次世代シーケンサー」という装置を使って、その人のフローラのバランスを可視化するサービスも増えました。このような科学の進歩も、腸活ブームに拍車をかけているのでしょう。

腸に届いた乳酸菌、その作用は脳まで届く

乳酸菌は種類ごとに作用が異なりますが、とくに“第二の脳”ともいわれる腸は、脳と影響し合う「腸脳相関」研究の成果で、認知機能をケアする乳酸菌サプリも登場しました。世界的に権威のあるトップジャーナル『The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE』には、適正な腸内フローラをもつ人の便を神経障害のある人の腸に直接入れたところ、神経障害が治ったという論文が発表されています。同じような治療法で潰瘍性大腸炎が改善した例もあります。 ちなみに、この“適正な腸内フローラを持つ人”の多くは子どもだそうです。ヒトの食生活が、成長につれ多様化することを考えれば頷けますね。現在の研究は、どういう菌を増やすべきかを模索している段階ですが、今や「腸脳相関」という考え方は「脳・腸・微生物相関」へと発展し、乳酸菌の可能性に期待が高まります。

自分に合った乳酸菌探しは地道にトライ&エラー

巷には乳酸菌由来の製品が多過ぎて、どれを選ぶべきか迷う人も多いでしょう。“ヒト” という大きな枠組みに対して作用が期待できる乳酸菌は沢山ありますが、前述したように、フローラを構成する細菌の内容や3つの細菌群のバランスは、個人単位で異なります。だからこそ、それが自分の身体に作用する乳酸菌か否かは、トライ&エラーを繰り返して見つけるしかありません。

ひとつの乳酸菌製品を2週間くらい連続で摂り続けてみて、「最近お通じのリズムがいい」とか「肌の調子がいい」など、何らかの良い兆しを体感したら、その乳酸菌が自分に合っているということです。自分の体に変化があるかどうかを、1種類ずつ検証するしかありません。もちろん発酵食品で試すこともおすすめですが、市販の発酵食品は添加物などもよく吟味した方が良いでしょう。

余談ですが、乳酸菌由来の製品にはアルファベットや数字を使った名称がよくありますが、これは、その企業の研究過程で見出された乳酸菌名にちなんでいることが多いようです。これまでビールで有名だった大手飲料メーカーが、ビールの醸造工程で乳酸菌の機能を発見し、商品化した例もあります。

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